城下町の古い長屋を民泊に再生|公庫融資の3つの関門と、総予算450万円の事例
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読了目安 約6分
執筆:アキヤド編集部
監修:石原 佑真
九州の城下町で、傷みが激しかった古い長屋を買い受け、宿に再生したご夫婦の事例です。総予算は約450万円(自己資金150万円+公庫融資300万円)。融資の面談で突きつけられた3つの関門と、その越え方を紹介します。
この記事のポイント
- 古い長屋が駐車場になっていくのを見て、宿にして残すと決めました。傷みが激しかった長屋を買い受けて、再生した事例です。
- 公庫の面談では、3つの関門を厳しく問われました。①年間の宿泊需要、②木造長屋の修繕リスク、③旅館業法と消防・建築基準です。③は、保健所・消防署との事前協議の議事録と、消防設備の見積書を事業計画書に添付して越えました。
- 体験は作らず、「何もしない贅沢」に絞りました。月商は約45万〜55万円、公庫の返済(月約5.5万円)などを引いた純利益は月15万〜18万円です。
事例の概要(取材時期:2026年1月〜3月)
九州の城下町で、傷みが激しかった古い長屋を買い受け、宿に再生したHさんご夫婦の事例です。最大の試練は、日本政策金融公庫(公庫)の融資の面談で突きつけられた「3つの関門」でした。関門の中身と、それぞれにどんな資料で答えたのかを、オーナーの言葉で紹介します。
取材対象Hさんご夫婦(Hさんは以前、福岡でインテリアの仕事をしていた)
物件九州の城下町の、傷みが激しかった古い木造長屋(買い受け)
総予算約450万円(自己資金150万円+公庫融資300万円)
客層静かな滞在を好む大人のカップル、一人旅の個人旅行者
コンセプト体験プログラムは作らず、「何もしない贅沢」を味わう大人の隠れ家
費用と収支はいくら?総予算約450万円、純利益は月15〜18万円
初期費用
自己資金150万円
日本政策金融公庫の創業融資300万円(返済は月約5.5万円)
合計約450万円
月の収支
月商(1か月の売上)約45万〜55万円
公庫の返済月約5.5万円
純利益月15万〜18万円
※ 純利益は、公庫の返済、建物の維持費、光熱費、清掃委託費、OTA(予約サイト)手数料などを引いた、本人申告の額です。
※ 長屋の購入費が総予算の約450万円に含まれるか、許可の種類、部屋数や稼働率(部屋が埋まっている割合)は、取材では確認していません。
Hさんご夫婦は、なぜ古い長屋を宿にしたのか?

Hさん
私はもともと、福岡でインテリアの仕事をしていました。日本の古い建築や、落ち着いたまちなみが大好きでした。九州を旅する中で、この城下町に一目惚れしたんです。

Hさん
歴史ある景観が残る一方で、空き家になった古い長屋が解体されて、駐車場になっていく。それを目の当たりにして、「この歴史的なまちなみを、何とか残したい」と思いました。

Hさん
「ただ泊まるだけの場所にするのではなく、この町の静かな空気感や歴史を肌で感じてもらえる隠れ家にしよう」。そう夫婦で話し合い、傷みが激しかった古い長屋を買い受けて、再生することにしました。
融資の面談で直面した「3つの関門」は?

Hさん
古い木造長屋を宿にするうえで、資金調達のハードルが最大の試練でした。手元にあった自己資金150万円に加えて、公庫で300万円の創業融資を申請しました。総額約450万円の予算です。ところが面談では、担当者からかなり厳しいツッコミを受けました。
関門 1年間を通した宿泊需要
周辺のビジネスホテルや他の民泊の稼働データを独自に集め、「静かな滞在を好む個人旅行者」を狙う根拠を数字で示した。
関門 2木造長屋の修繕リスク
見積もりに多めの予備費を組み込み、万が一は自己資金の範囲で調整するバックアッププランを事業計画書に書いた。
関門 3旅館業法と消防・建築基準
建築士と保健所・消防署へ何度も足を運び、事前協議の議事録と消防設備の見積書を事業計画書に添付した。
横にスワイプで続きを見られます
関門① 「この城下町で、本当に年間を通して宿泊需要があるのか」

Hさん
周辺のビジネスホテルや、他の民泊の稼働データを、独自に集めました。そして、「派手な観光客ではなく、静かな滞在を好む個人旅行者をターゲットにする」という根拠を、数字で示しました。
関門② 「古い木造長屋ゆえの修繕リスク」

Hさん
途中で追加工事費が発生して、資金ショートしないように、見積もりに多めの予備費を組み込みました。万が一の際は、自己資金の範囲内で調整できるバックアッププランを、事業計画書に明記しています。
関門③ 「旅館業法と、消防・建築基準のクリア」

Hさん
これが、最も厳しく突っ込まれた点です。「消防法上の自動火災報知設備の設置や、防火区画の基準で引っかかり、オープンが数か月遅れたり、追加工事で資金ショートしたりするリスクがある。本当に許可が下りるのか」と、シビアに詰められました。

Hさん
そこで、事前に建築士と二人三脚で、所轄の保健所や消防署へ何度も足を運びました。事前協議の議事録と、消防設備の見積書を事業計画書に添付して、ようやく納得していただくことができました。
なぜ体験を作らず、「何もしない贅沢」にしたのか?

Hさん
数々の関門を突破して、工事を終えた後。特殊な体験プログラムなどは、作りませんでした。古い梁や土壁、味わいのある建具といった、建物自体の魅力を最大限に活かしました。そして、「静かに読書をしたり、何もしない贅沢を味わったりできる、大人の隠れ家」というコンセプトを、徹底しました。
- 周辺の静かな散策マップを自作して、部屋に置いた
- 過度なサービスはあえてせず、自分のペースでゆっくり過ごしてもらえるよう、シンプルな準備に徹した

Hさん
これが、慌ただしい旅行を避けた、大人のカップルや一人旅の宿泊者に響きました。口コミで少しずつ、リピーターが増えていきました。
いまの収支と、続けてみて思うことは?

Hさん
月商は約45万〜55万円を、コンスタントに記録しています。公庫への毎月約5.5万円の返済、建物の維持費、光熱費、清掃委託費、OTA手数料などをすべて引いても、毎月15万〜18万円ほどの純利益が手元に残る状態です。

Hさん
最初に厳しい融資の審査をくぐり抜けて、身の丈に合った手堅い収益モデルが作れました。おかげで今は、何のプレッシャーもなく、落ち着いて経営できています。

Hさん
地域の方々からも、「あのボロボロだった長屋を綺麗に残してくれてありがとう」と、温かい言葉をかけられます。ゲストがチェックアウトのときに、「本当に静かで癒やされました」と言ってくれる瞬間が、何よりのやりがいです。
古い木造の建物を宿にする前に、確認したいポイントは?
解説:融資の面談で聞かれやすい3つのこと
言葉の意味:創業融資は、これから事業を始める人向けの融資です。自動火災報知設備は、煙や熱を感知して建物全体に知らせる設備、防火区画は、火が広がらないよう建物を区切る壁や扉です。事前協議は、工事や申請の前に、保健所・消防署と基準を確かめておく相談です。
- 需要:その地域で、年間を通して泊まる人がいるか。周辺の宿の稼働や、狙う客層を数字で示します。
- 修繕のリスク:古い木造は、壊してみてから傷みが見つかることがあります。見積もりに予備費を入れ、足りないときにどうするかを書いておきます。
- 許可の見通し:旅館業の許可には、消防設備(自動火災報知設備など)や建築の基準が関わります。保健所・消防署に事前に相談し、その記録や見積もりを計画書に付けると、許可の見通しを示せます。
始める前の確認リスト
- 周辺の宿の稼働や客層を、自分で調べて数字にしたか
- 改修の見積もりに、予備費を入れたか
- 保健所・消防署・建築士と、許可の要件を事前に確かめたか
- 事前相談の記録や見積書を、事業計画書に付けられるか
- 建物の魅力(梁・土壁・建具など)を、そのまま売りにできるか
消防設備の基本は「民泊・小さな宿の消防設備ガイド」、古い家の改修は「古民家を宿に改修するポイント」、資金の組み合わせ方は「小さな宿の開業資金の用意のしかた」にまとめています。
この事例の取材について
この事例の取材について
- 取材時期:2026年1月〜3月。数字は取材時点のオーナー本人の申告です。
- 掲載の許諾を得ており、お名前は匿名にしています。
- 数字は取材時点のものです。現在の数字とは異なる場合があります
- 本記事は個人の事例であり、収益を保証するものではありません。制度や基準は変わるため、最新の情報は各窓口でご確認ください。
- 純利益は、オーナーの申告にもとづく、売上から費用を引いた額です。オーナー自身の作業時間や所得税などを含むかは、取材では確認していません。
物件や資金の進め方に迷っているときは、無料で相談できます。
よくある質問
Q古い木造の長屋でも、公庫の融資を受けられますか?
Aこの事例では、需要・修繕リスク・許可の見通しの3点を厳しく聞かれ、稼働データ、予備費を入れた見積もり、保健所・消防署との事前協議の議事録で答えて、融資を受けています。※ 審査は申込みごとに公庫が判断します。
Q消防の基準で、開業が遅れることはありますか?
A自動火災報知設備や防火区画の基準で追加工事が必要になり、開業が遅れたり費用が増えたりするおそれがあります。この事例では、工事の前に建築士と保健所・消防署へ何度も相談しました。
Q体験プランがなくても、宿は選ばれますか?
Aこの事例では、体験プログラムを作らず、建物の魅力と静かな時間を売りにして、大人のカップルや一人旅の宿泊者にリピーターが増えました。合う客層を絞ることが前提です。
参考資料(2件)
※ 本記事の数値・制度は公開日時点で公表されている資料にもとづきます。最新の情報は各機関の発表をご確認ください。
この記事を書いた人
アキヤド編集部
合同会社RIVIA&CO.のメディア編集部。空き家の再生から宿泊施設の運営・開業支援、WEB集客・採用支援まで、自ら宿を運営する当事者の視点で、地域の価値を活かすための情報をお届けします。
この記事の監修者
石原 佑真合同会社RIVIA&CO. 代表社員
株式会社リクルートの新規事業開発室で事業の立ち上げを経験し、その後ベンチャー企業で新規事業の創出と組織の拡大を牽引。RIVIA&CO.を共同創業し、空き家の再生と宿の運営・開業支援に携わる。