民泊・小規模宿は新築と中古どっち?費用・工期・法令・税金の違いと選び方
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執筆:アキヤド編集部
監修:石原 佑真
小さな宿は、新しく建てるのと、空き家を直して使うのと、どちらがよいか。下田の宿づくりでかかった費用と手間、焼津の計画、買う前に確かめる古い家の弱点、建物の費用を何年かに分けて経費にする計算を比べます。
この記事のポイント
- 中古の空き家を直せば、今ある建物とその土地らしさを活かせます。地方の小さな宿なら、まず中古の空き家を直す道から考えます。今ある建物を活かせて、その土地らしさが売りになります。
- 下田の例で、準備期間と費用の見通しが立てやすくなります。私たちの宿は、約7か月の準備で開業しました。工事は約410万円、家具・家電・備品は約240万円です。
- 買う前に4つを確かめると、思わぬ改修費や手続きを避けやすくなります。確かめるのは、1981年5月以前の建物か(古い耐震基準=旧耐震)、電気の配線、建物の使い道を変える手続きが要る広さか(200㎡)、道路への接し方と土地の区分(接道・用途地域)。
- 中古の建物なら、経費にできる年数を短くできる場合があります。短くする計算を簡便法といいます。ただし、直す費用が買った値段の50%を超えると使えません(国税庁)。
新築と中古は、何がどう違うのか?
中古の空き家を直せば、今ある建物とその土地らしさを活かせます。地方の小さな宿なら、まず中古(空き家の改修)から考えるのが現実的です。古い家の雰囲気が差別化になるためです。新築の費用と工期は、土地・規模・設計で変わるため、物件ごとに見積もりを取って比べます。
税と融資の違いは、あとの節で数字を使って説明します。古民家の改修の進め方は、「古民家を宿に改修するポイント」で紹介しています。
下田の例では、準備期間と費用はどれくらいかかったのか?
私たちの宿は、約7か月の準備で開業しました。工事は約410万円、家具・家電・備品は約240万円です。手間がかかったのは、間取りの変更、見えない部分の劣化、配線、許可の4点でした。創業メンバーが宿を開業したときの経験と、焼津で準備中の宿の計画です。
下田 1間取りと解体
和室を長期滞在向けの洋室に改修。間仕切りや押し入れは自分で解体し、梁・柱・下地が分かりました。
下田 2見積もりと追加請求
3社の見積もりから、いちばん安い会社に発注。完了後の追加請求は、相談して一部の支払いにとどめました。
下田 3古い配線
二芯(単相2線式:電線2本の古い方式)の配線で、エアコン・冷蔵庫・電子レンジを同時に使えず、ゲストに案内して運用しました。
下田 4旅館業の許可
旅館業法の簡易宿所(旅館業の許可の種類のひとつ。客室を共用する造りも含み、小さな宿が多い)の許可を取得。保健所と消防署に開業の2か月前に相談し、申請から許可まで1〜2か月でした。
焼津(予定)水回りの刷新
約40㎡の木造平屋。水回りは全面刷新し、風呂場は浴槽をつくらずシャワー室にする計画です。
横にスワイプで続きを見られます
工事費を抑えるために解体を自分で行ったことで、設計や家具の手配の精度が上がりました。
配線は、3芯化の工事に費用がかかります。早めに確認して、資金計画に入れておく項目です。見積もりを取るときは、工事の範囲と追加費用の扱いを、文書で残します。
遠方からの工事の進め方は、「遠方からの改修工事の進め方」で紹介しています。
中古を選ぶとき、購入前に何を確かめるか?
買う前に4つを確かめると、思わぬ改修費や手続きを避けやすくなります。確かめるのは、耐震、配線・設備、用途変更の規模、土地の条件の4つです。
※ 出典:国土交通省「建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)について」ほか。2026年10月時点。
建築基準法の耐震基準は、1981年6月に大きく改正されました。静岡県内の空き家の解体補助にも、「昭和56年5月31日以前の建築」を条件にする市町が多くあります(静岡県35市町の補助)。
用途変更の確認申請が不要でも、建物を宿泊施設の基準に合わせる必要があることは変わりません。長く空き家だった建物は、雨漏りやシロアリが進んでいることがあるため、購入前に専門家の建物調査(インスペクション)を入れると見落としを減らせます。
消防設備は、「民泊・小さな宿の消防設備ガイド」で説明しています。
新築にするなら、先に何を確かめるか?
新築が向くのは、更地の土地を持っている場合と、宿泊用に設計したい場合です。古い建物が残る土地は、新築の前に解体費がかかります。
- 宿泊に合わせて設計したい:客室数、水回りの数、清掃の動線まで、運営しやすい建物をゼロから設計できます。
- 長く安定して運営したい:当面の大規模修繕が小さく、長期の計画を立てやすくなります。
- 条件に合う中古が見つからない:土地は持っているが建物が古すぎる、という場合は、新築が現実的です。
解体費には、自治体の補助があります。静岡県内の例を挙げます。
※ 2026年10月時点の各市の公式ページの記載。解体後の土地の使い方に条件がある制度もあります。宿として新築する場合に対象になるかは、事前相談で確かめます。
新築の見積もりは、建築士や工務店に出してもらい、中古の取得費と改修費の合計と、同じ条件(延べ面積・客室数・消防設備)で並べて比べます。条件がそろっていない見積もりは、比べても判断できません。新築の費用と工期は、土地・規模・設計で変わるため、物件ごとに見積もりが必要です。
中古なら、経費にできる年数は短くできるのか?融資はどう変わるのか
中古の建物なら、経費にできる年数を短くできる場合があります。建物の費用を何年かに分けて経費にする計算(減価償却)で、その年数(耐用年数)を簡便法という計算で短くできます。年数が短いほど、1年あたりの経費が大きくなります。
ただし、直す費用が買った値段(取得価額)の50%を超えると使えません(国税庁)。
※ 法定耐用年数が22年(木造住宅用)の場合の計算例です。法定耐用年数は用途で変わり、宿泊用の区分になる場合は年数が違います。1年未満の端数は切り捨て、2年未満は2年です。出典:国税庁タックスアンサー No.5404「中古資産の耐用年数」(令和8年4月1日現在法令等)。
改修費の50%の線
取得した中古資産を事業に使うために支出した改修費(資本的支出)が、取得価額(買った値段)の50%を超えると、簡便法は使えません。再取得価額(同じ新品を取得する場合の価額)の50%を超えると、法定耐用年数になります。
取得費が安い空き家ほど、改修費がこの線を超えやすいと考えます。見積もりの段階で、税理士に確認します。
融資の期間と金額は、審査で個別に決まります。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、設備資金で返済期間20年以内(据置=元金を返さず利息だけ払う期間は5年以内)が上限で、実際の期間は審査で決まります。
私たちの宿の融資は200万円で、法人名義の相談は見送られ、個人名義で決まりました。融資なしでどこまでできるかを先に設計しておくと、条件が変わっても動けます。資金の組み立ては、「小さな宿の開業資金はどう用意する?」で説明しています。
まとめ:地方の小規模宿なら、まず「中古の活用」から
新築と中古のどちらが向くかは、土地・予算・目指す宿によって変わります。地方で小さな宿を始めるなら、既存の建物を活かし、地域らしさを魅力にできる中古の改修が、有力な選択肢です。
購入前に、耐震・配線・用途変更・土地の4つを確かめ、改修費が取得価額の50%を超えるかも見ておきます。物件選びの段階で、宿の運営を知る専門家に相談すると、見落としが減ります。
よくある質問
Q古民家を宿にするとき、費用はどれくらいかかりますか?
A建物の状態と改修の範囲で大きく変わります。私たちの宿の例では、改修工事が約410万円、家具・家電・備品が約240万円でした。耐震補強や水回りの全面改修が必要だと、さらに高くなります。購入前に建物調査と概算見積もりを取ります。
Q旧耐震基準の建物でも宿泊施設にできますか?
A直ちに不可能というわけではありませんが、安全の確保のために耐震診断や補強工事が必要になる場合があります。費用と工期が増えるため、物件選びの段階で確認します。
Q中古住宅を宿にするのに、建築確認の手続きは必要ですか?
A旅館業(簡易宿所)への用途変更で、床面積が200㎡を超える場合は確認申請が必要です。200㎡以下なら申請は不要ですが、建物を宿泊施設の基準に合わせる必要はあります。
Q中古の減価償却は、短くできますか?
A法定耐用年数を過ぎた木造住宅なら、簡便法で22年の20%、つまり4年にできる場合があります。ただし、改修費が取得価額の50%を超えると簡便法は使えません。個別の判断は、税理士に確認してください。
Q新築と中古、融資を受けやすいのはどちらですか?
A新築と中古のどちらが受けやすいかは、一概には言えません。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、設備資金で返済期間20年以内(据置5年以内)が上限で、実際の期間と金額は審査で決まります。返済計画を先に試算します。
参考資料(6件)
- 国土交通省「建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)について」
- 国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
- 国税庁「タックスアンサー No.5404 中古資産の耐用年数」(令和8年4月1日現在法令等)
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 静岡市「空き家建替え促進事業補助金」、焼津市「空き家除却事業補助金」(各市の公式ページ)
- 厚生労働省「旅館業法について」
※ 本記事の数値・制度は公開日時点で公表されている資料にもとづきます。最新の情報は各機関の発表をご確認ください。
この記事を書いた人
アキヤド編集部
合同会社RIVIA&CO.のメディア編集部。空き家の再生から宿泊施設の運営・開業支援、WEB集客・採用支援まで、自ら宿を運営する当事者の視点で、地域の価値を活かすための情報をお届けします。
この記事の監修者
石原 佑真合同会社RIVIA&CO. 代表社員
株式会社リクルートの新規事業開発室で事業の立ち上げを経験し、その後ベンチャー企業で新規事業の創出と組織の拡大を牽引。RIVIA&CO.を共同創業し、空き家の再生と宿の運営・開業支援に携わる。