古民家を民泊に改修するポイント|残すもの・変えるもの、断熱・水回り・耐震
公開日
更新日
読了目安 約6分
執筆:アキヤド編集部
監修:石原 佑真
古民家を宿として再生するとき、梁や建具などの魅力を残しながら、快適さと安全性を高める改修が求められます。残すもの・変えるものの考え方と、断熱(寒さ対策)・水回り・耐震(地震への強さ)など優先して考えたい点を解説します。
この記事のポイント
- 築古の一軒家でも、工事費410万円ほどで宿にできた例があります。下田市の宿の改修で、築古の賃貸の一軒家を宿にしました。
- 古い配線の家は、工事の前に電気の容量を確かめます。下田の宿の二芯(電線2本の古い方式)の配線では、エアコン・冷蔵庫・電子レンジを同時に使うと足りない場面がありました。電気の容量を増やす3芯化の工事は費用がかかるため、早めの確認が必要です。
- 1981年5月31日以前の建物は、耐震診断を考えます。この年代の建物は旧耐震基準(古い耐震基準)で建っています。国土交通省は、地震に耐えられるかを調べる耐震診断を勧めています。
- 使い道を変える部分が200㎡以下なら、建築確認を省ける場合があります。工事前の役所の審査が不要になりました(2019年6月から)。旅館業の許可と消防の基準は別に必要です。
何を残して何を変えるかは、解体して中を見てから決められる?
古民家の宿の魅力は、新築では出せない時間の積み重なりにあります。ただ、残せるかどうかは、壁や床を開けてみないと分かりません。
改修の前に決める「残すもの」と「変えるもの」
残すもの
時間が生む魅力
- 太い梁や柱、吹き抜け
- 土間・縁側・囲炉裏
- 格子戸・欄間などの建具
- 庭や周辺の景色
変えるもの
快適さと安全
- 浴室・トイレ・キッチン
- 断熱・すきま風対策
- 照明・コンセント・Wi-Fi
- 耐震性・防火性
九州の城下町で、傷みが激しかった古い木造長屋を宿にしたHさんご夫婦は、古い梁や土壁、味わいのある建具といった建物そのものの魅力を残し、特別な体験プログラムは作りませんでした。「何もしない贅沢」を味わえる隠れ家という打ち出しが、静かな滞在を好む大人のカップルや一人旅の人に選ばれています(城下町の長屋の事例。オーナー本人の申告)。
何を残せるかを見極める手順は、私たちの宿づくりが参考になります。創業メンバーが下田市で宿を開業したとき、工事費を抑えるために、間仕切り・押し入れ・古い洗面所を自分たちで解体しました。壊してみると、梁(屋根を支える横木)・柱・下地(壁や床の内側の骨組み)の状態が分かり、設計や家具の手配の精度が上がりました。
この宿は古民家ではなく、下田市の賃貸の物件です。和室を、外国人の長期滞在向けの洋室に改修しました。それでも、「残す・変える」は壊してから決めるほうが外れにくい、という点は古い家に共通します。
水回りと寒さは、どこまで直すのが現実的?
水回りは、古い洗面所の解体で下地が見えたように、壁の中を見てから交換する範囲を決めるのが確実です。見えないまま見積もると、開けたあとの追加工事になりやすくなります。
水回りは、予算の大きな部分を占めやすい工事です。相続した築45年の家を宿にしたFさんは、キッチン・浴室・トイレの入れ替えと床・壁の補修が必要になり、「最初は250万円くらいで収まると思っていたが、水回りだけで予算の半分近くになった」と話しています。改修は約220万円で、初期費用約400万円の半分以上でした(築45年の家を旅館業の許可で宿にした事例。オーナー本人の申告)。
寒さも同じで、断熱は床・壁・天井の中の状態で工法が変わります。長く過ごす寝室や居間から優先し、内窓(今の窓の内側に足す窓)の設置などは見た目を変えずに足せます。
遠方からの工事の進め方は、「遠方からの改修工事の進め方」で説明しています。
改修費はいくらかかる?追加請求にはどう備える?
築古の一軒家でも、工事費410万円ほどで宿にできた例があります。私たちの下田市の宿(賃貸の一軒家)は、改修工事が約410万円でした。ほかに家具・家電・備品が約240万円です。
※ 改修工事の約410万円は、解体の一部を自分たちで行った分も含む一例で、古民家の改修費の相場ではありません。
工務店は3社から見積もりを取り、見積額がいちばん低かった会社に発注しました。補助金の要項に「市内の工務店との契約」が求められていたため、見積もりの結果と照らして判断しました。
工事が終わって支払いをしたあとに、想定外の追加請求がありました。相談のうえ、一部の支払いにとどめています。学んだのは、やりとりを文書で残すことと、構想を最初に言語化して工務店と共有することです。結果として、追加分を含めた支払いは他社の見積もりと大差がなくなりました。
古民家の改修に使える補助の例として、兵庫県の「古民家再生促進支援事業」があります。宿泊体験施設なども対象で、補助額は対象経費で決まります。
※ 2026年10月時点の兵庫県の公式ページの記載です。改修後に一定の耐震性を確保すること、10年以上活用すること、市町からも補助を受けることが要件で、令和8年度の受付は終了しています。ほかの地域の制度は、所在地の自治体で確認してください。
古い家の電気配線は、工事の前に何を確かめる?
古い配線の家は、工事の前に電気の容量を確かめます。築古の賃貸住宅だった私たちの宿では、配線が二芯(単相2線式:電線2本の古い方式)のままで、エアコン・冷蔵庫・電子レンジを同時に使うと制約が出ました。ゲストには同時使用を控えてもらう案内を出して運用しています。
3芯にして電気の容量を増やす工事は費用がかかります。あとから分かると資金計画に入っていないため、物件を決める前、遅くとも設計の段階で配線の状態を確認しておくのが安全です。
耐震は、いつの建物から診断が必要?
1981年5月31日以前の建物は、耐震診断を考えます。耐震基準は1981年6月1日に強化されました。建築時期ごとの、国が示す対応は次のとおりです(木造住宅)。
耐震が補助の条件になることもあります。兵庫県の古民家再生の補助は、改修後に一定の耐震性を確保することが要件です。
宿にするとき、建築確認や許可はどこまで必要?
使い道を変える部分が200㎡以下なら、建築確認を省ける場合があります。宿に用途変更(建物の使い道を変えること)する部分の床面積が200㎡以下なら、用途変更の建築確認(工事前の役所の審査)は不要です。2019年6月25日施行の建築基準法の改正で、100㎡から200㎡に引き上げられました。ただし、建築基準法と消防法への適合は引き続き求められます。
下田市の私たちの宿は、旅館業法の簡易宿所(旅館業の許可の種類のひとつ。客室を共用する造りも含み、小さな宿が多い)の許可を取りました。民泊新法の年180日の制限を避け、通年で営業するためです。保健所と消防署には開業の2か月前に事前相談し、自分で申請して、申請から許可まで1〜2か月でした。許可番号がないと、Airbnb で予約を受けられません。
古い木造の建物では、消防の基準が工期と費用を左右します。城下町の長屋を宿にしたHさんご夫婦は、融資の面談で「自動火災報知設備や防火区画の基準で引っかかり、開業が遅れたり追加工事で資金が足りなくなったりしないか」と問われました。建築士と一緒に保健所・消防署へ何度も事前相談し、その議事録と消防設備の見積書を事業計画書に付けています(オーナー本人の申告)。
※ 200㎡の扱いは、2026年10月時点の国土交通省の資料にもとづきます。最終的な判断は自治体の建築部局と消防署に確認してください。
消防設備の基準は、「民泊・小さな宿の消防設備ガイド」で説明しています。
まとめ:壊して中を見てから、配線・耐震・手続きの順に確かめる
古民家の改修では、梁や建具など家の個性は残し、お金は水回り・配線・断熱・耐震に回します。そのために、解体して中を見る、配線を早く確かめる、やりとりを文書で残すの3つを先にやっておくと、追加の費用を抑えやすくなります。
新築と中古のどちらにするかは、「小規模宿は新築と中古どっち?」で比べています。
よくある質問
Q古民家の改修費はどのくらいかかりますか?
A私たちが下田市で築古の賃貸の一軒家を宿にしたときは、改修工事が約410万円でした。構造の補強や水回りの全面更新が必要な古民家は、これより大きくなることがあります。※ 約410万円は古民家の相場ではなく、一例です。
Q改修に使える補助金はありますか?
A兵庫県の古民家再生促進支援事業は、宿泊体験施設なども対象で、対象経費500万円以上から補助があります(令和8年度の受付は終了)。条件は地域ごとに異なるため、所在地の自治体に確認してください。
Q改修中に注意すべきことは?
A解体してから傷みや配線の古さが見つかることがあります。追加請求に備えて、見積もりの範囲や変更の合意をメールなど文書で残し、予備費を見込んでおきましょう。
参考資料(5件)
※ 本記事の数値・制度は公開日時点で公表されている資料にもとづきます。最新の情報は各機関の発表をご確認ください。
この記事を書いた人
アキヤド編集部
合同会社RIVIA&CO.のメディア編集部。空き家の再生から宿泊施設の運営・開業支援、WEB集客・採用支援まで、自ら宿を運営する当事者の視点で、地域の価値を活かすための情報をお届けします。
この記事の監修者
石原 佑真合同会社RIVIA&CO. 代表社員
株式会社リクルートの新規事業開発室で事業の立ち上げを経験し、その後ベンチャー企業で新規事業の創出と組織の拡大を牽引。RIVIA&CO.を共同創業し、空き家の再生と宿の運営・開業支援に携わる。